シニア犬と狂犬病予防接種

動物病院

4月・5月・6月は狂犬病予防注射月間です

春といえば狂犬病予防接種のシーズン。
でもたまに「うちの子はもう高齢だから一昨年からやめてるのよ」なんて声をききませんか?
狂犬病ワクチンも他のワクチンと同様に副反応(副作用)が残念ながらあります。また狂犬病予防についてもさまざまな説が蔓延しており、大切な愛犬に果たして接種して良いのか悩むのは当然のことです。

ただし皆さんご存知のとおり、犬の飼い主には、
1)現在居住している市区町村に飼い犬の登録をすること
2)飼い犬に年1回の狂犬病予防注射を受けさせること
3)犬の鑑札と注射済票を飼い犬に装着すること
以上の3つが法律により義務付けられています。

さて、どうすればよいのか?高齢のワンちゃんと狂犬病予防接種について考えてみましょう。

狂犬病予防注射の副反応とは?

厚生労働省のホームページにはこんな記載があります。 

犬に対する狂犬病の予防注射においては、一過性の副反応(疼痛、元気・食欲の不振、下痢又は嘔吐等)が認められることがあります。過敏体質の場合、まれにアレルギー反応〔顔面腫脹(ムーンフェイス)、掻痒、蕁麻疹等〕、アナフィラキシー反応〔ショック(虚脱、貧血、血圧低下、呼吸速拍、呼吸困難、体温低下、流涎、ふるえ、けいれん、尿失禁等)〕などが報告されています。

厚生労働省:狂犬病に関するQ&Aについて

 みるからに恐ろしそうな症状が並んでいるので、愛犬にこんなことが起こったら大変!そんな気持ちに陥ってしまうかもしれません。
 
それではこういった副反応が起こる確率ってどの程度なのでしょう。
 
2008年の日本獣医師会雑誌61巻7号「近年における動物用狂犬病ワクチンの副作用の発生状況調査」によると、狂犬病ワクチンの副作用発現率は0.000006%とのことです。
あまりにも数字が小さすぎてピンときませんので、比較対象を設定してみます。

リスクの比較

・狂犬病で重篤な副作用が発現する確率:0.000006%
・人が飛行機事故で死ぬ確率:     0.00001%

「狂犬病予防接種で重篤な副作用が生じる可能性」は「飛行機事故で死ぬ可能性」のだいたい半分程度のリスク

また、獣医師は医薬品及び医療用具における重大な副作用等を知った際には農林水産省に報告することが義務付けられています。農林水産省動物医薬品検査所によると平成30年度に報告された狂犬病予防注射に関する副作用の件数は19件となっています。
(参考)平成30年度日本国内における狂犬病予防注射頭数:4,441,826頭
 
いかがでしょうか?想像していたよりも、かなり低い確率だったかと思います。
もちろん少なければ良いというものではなく、重篤な副作用が生じることはできる限り避けなければいけません。一方、思い込みだけで心配しすぎるのもよくありません。愛犬のためにも賢く正確にリスクは把握してあげましょう。

シニア犬のための狂犬病予防注射

 さて、リスクはさほど大きくないということを前提にしても、やはり高齢犬の場合には副反応が心配です。リスクを最小にするための方法を以下にご紹介したいと思います。

1)狂犬病予防注射はかかりつけ医で

高齢のワンちゃんの場合には、集団接種ではなく、いつも診ていただいているかかりつけの動物病院での接種がおすすめです。たとえ年齢が同じであっても、身体の状態は千差万別です。またこれまでにかかった病気や、その子の体調をわかっている獣医師の先生であれば、予防注射を実施すべきかどうかより正確な判断が可能です。
集団接種に比べると少しだけ料金が高くなることが多いようですが、安心・安全のために必要なお金だと思いましょう。

2)注射後は病院で様子を観察

重篤な副作用であるアレルギー症状は注射直後に出ることが多いため、病院内または病院の近くで30分ほど様子をみると安心です。混み合っていなければ病院のスタッフさんに事情を説明した上で待合室で、もしくは駐車場に止めた車の中でおかしな様子はないか確認し、万が一の時にはすぐに受診できるようにしましょう。
またごく稀に数日後に副作用が生じたケースもあるようですので、当日はしっかりと安静にし、数日間は注意して様子を見守ってあげましょう。

3)どうしても心配なら「狂犬病予防注射猶予」のご相談を

獣医師の認める正当な理由があり、獣医師の先生が予防注射は無理だと判断された場合には、「狂犬病予防注射猶予証明書」を発行していただくことができます。
これを自治体の窓口に提出することにより、原則として一年間の猶予期間が与えられます。
心配な理由も含めて、かかりつけの獣医師の先生に相談してみましょう。
 
ただし、当然のことながら自己判断は禁物です。
「もう今年から射たないことに決めたから、証明書を発行してください」なんてことを獣医師の先生に依頼するのは、法律違反をしてくださいと依頼しているのと同じです。それを決めるのは飼い主さんではありません。
場合によっては、「こんなにモラルが低い飼い主さんだったのか」とこれまで積み上げてきた信頼関係を台無しにしてしまうこともありますので、あくまでも獣医師の判断のもと発行が可能なものであるということを忘れないで下さいね。

さて、いかがだったでしょうか。
冒頭でも触れたように狂犬病予防には諸説あります。ただ各自治体で設置しているペットの災害対策ガイドラインなどにも「避難所において周囲の方々の理解をえるためにも各種予防接種はきちんと受けておきましょう」といった記載があることからわかるように、社会にワンちゃん達が受け入れられ、人と犬がともに生きるためには、やはり必要なものでしょう。
春はフィラリア予防やノミ・ダニ予防なども含めて、その年度の予防スケジュールを確認するのに最適なタイミングですので、この機会にしっかりと見直しておきましょうね。

質問と回答

記事についてのご質問をいただきましたので、以下に回答させていただきます。 

高齢犬の場合には通常よりもリスクはどの程度高くなるのですか? 

記事の中で参考としてあげた日本獣医師会雑誌61巻7号「近年における動物用狂犬病ワクチンの副作用の発生状況調査」において年齢層別の副作用発現率は以下のように報告されています。 

最も副作用の発現率が低い4〜6歳を1とすると

  • 1歳未満  :4.7倍
  • 1〜3歳  :2.1倍
  • 4〜6歳  : 1倍
  • 7〜9歳  :1.8倍
  • 10〜12歳:3.0倍
  • 13歳以上 :1.2倍

まず最もリスクが高いのはまだ成長段階で身体が未熟な1歳未満、ついで10〜12歳となっています。推測の域を出ませんが、13歳以上の子でリスクが低くなっているのは、記事の中でもあげた獣医師の先生による注射猶予が機能しているためかと思います。 

注射後に注意すべき症状にはどのようなものがありますか? 

命に関わるものとしては、急性のアナフィラキシー反応(虚脱、貧血、血圧低下、 呼吸速迫、呼吸困難、体温低下、流涎、ふるえ、けいれん、尿失禁等)に最も注意が必要です。これらの異常がみられたら、一刻もはやく動物病院を受診してください。
また、それぞれの子が持っている基礎疾患に関連して注意すべき副作用もあるかもしれませんので、詳しくはかかりつけの獣医師の先生にご相談ください。

副作用の報告がきちんとされていないケースもあるのではないでしょうか? 

全件報告されていないのではという疑問についてはもっともだと思います。医薬品の副作用報告制度は人間の薬でも同様のものが実施されていますが、いずれも制度の完全性を保証することはできません。
ただ、獣医師の先生にしてみれば、推測を元にして診療方針を決めることは難しく、何かあればきちんと報告をあげ、そのデータを元にして判断を下すことが現在できる最善のことでしょう。また、何か異常が生じた場合、接種を行った獣医師の先生にそのことを伝えるといった飼い主さんの協力も大切でしょう。
狂犬病ワクチンに限りませんが、医薬品副作用報告制度がきちんと機能するためには、獣医師の先生と飼い主さん双方の協力が不可欠かと思います。